-息子と二人のロンドン紀行-

仕事で疲れて帰ってくる夫に、庭の花への水撒きなど申し訳なくて頼めないので
バカンスは無しといっていたのですが、12歳半の息子のことを考えると可哀想で、
義理と人情ならぬ妻と母とのポジションの板ばさみに悶々としていたら、
夫があっさりと 「行ってくれば?」 と言ってくれたので
8月5日から11日までロンドンへ行ってきました。

イタリアに住み始めた頃、ヨーロッパは地続きでどこへでもいけるなぁと思い、
ヨーロッパの言語を全部操るPaoloと知り合ってからは、しめしめおかかえ通訳ができたと
ほくそえんででいたのですが、若い頃にヨーロッパ中を見てしまったPaoloには、
しかも気候がよくて食べ物のおいしいイタリアに住んでいる彼には、
どこへも行ってみたいなどという気にはならず今日まで過ごしてきました。

でも、息子が大きくなったらあちこち行こうねと言っていたのですが、
他の人達がバカンスのときは仕事が目いっぱいのPaolo。
冬場に仕事がめっきり少なくなるので、夏の間に蟻さんのように働いておかなくてはなりません。

彼の経験と言葉があればロンドンももっと良く見てまわれたと思うのですが、
頼りない母親との珍道中も、もしかしたら息子の成長には役立ったかもしれません。

私は1988年の2月以来イタリアから一歩も出たことがありませんでした。
なんと17年目にしての外国です。
とはいえ、生活様式が似ているせいかあまり外国というイメージはありません。
田舎から大都会へいって来るという感覚で出かけてきました。
そして、東京や大阪で暮らしていた私にはロンドンの街の喧騒が懐かしく心地よかったです。

イタリアに比べると物価が高いけれど、その分何もかもちゃんと稼動しているし、
素材は質素でも、壊れたものが少ない街でした。

何よりたくさんの人が働いていて驚きました。
イタリアには地下鉄の各駅に人がいないところのほうが多いし、
お店に入っても店員さんを見つけるのにひと苦労することがあります。
12歳半の息子はすっかりロンドンに惚れ込んでしまいました。

最近ヨーロッパ圏内をごく安い航空料金で運行する航空会社が出てきて、
アリタリアの普通料金だとRoma-London間は一人600エウロ以上するのですが、
小さな飛行場から出発するいくつかの飛行機は、運がいいと一人60エウロくらいで
切符が手に入ることもあるそうです。
今回私たちは二人で350エウロ。まあまあと言うところでしょうか。

着いたのはロンドン時間で、午後1時半。
空港から汽車に乗り、地下鉄に乗り換え、目的の駅で降りてすぐに地図を購入。
出発前に探したのですが、わが田舎町ではロンドンの地図を売っていなかったのです。
その地図を頼りに歩き始めたのですが、建物がみんな同じような格好で、
ホテルの写真では小さな緑地帯の前にあるはずなのですが、
そういう小さな公園がたくさんあって、ずいぶん迷いました。

 

そしてロンドン名物の雨も降ってきて(着いたときにはいいお天気だったのに)
重いかばんが余計身にこたえました。
三ツ星のホテルにはエアコンがなくて暑い思いをしましたが、
なんとフロントにイタリア人の可愛いお嬢さんがいてくれたので、
言葉のおぼつかない私たちには何よりもの幸運でした。
宿泊客の半分くらいはイタリア人でした。

それでもやっとホテルにたどり着き、着替えをしてまた街に出たときには雨も上がり、
息子のお目当てのSOHOへ行き、パブに入ったら
またまた片言のイタリア語を話すウエイターに出くわしました。

イタリアではお勘定は最後にまとめてするのですが、
ロンドンでは飲み物と引き換えにすぐに払わなくてはならないことを
彼は少し恐縮したような感じで説明してくれました。

2日目は、はとバスならぬBIG BUSという観光バスで主なところを見てまわり、
ロンドン・アイという大きな観覧車に乗ったり、ウエストミンスター寺院へ入りました。

3日目にはKew Gardenという、巨大な温室のある庭園へ行き、
はからずも息子に日本の民家を見せることができて感激。

 

4日目はロイヤル・エアフォース博物館という戦闘機がたくさん並び、
風速の説明や体験飛行ができる面白いところへ行って来ました。
しかも入館無料です。
日本の方をお見かけし、少し話し込んで帰りました。

5日目。前日が飛行機だったので、今日は船。
かつての戦艦を公開していて、調理場や医務室には本物そっくりのマネキンがいて、
臨場感あふれるシーンを再現していました。
その後はまたまたSOHO、ピカデリーサーカス界隈です。
ロンドンに小さいながらもチャイナタウンがあることも知りませんでした。


6日目。昨夜からの雨がまだ降り続いています。
でも、息子は傘も買ったことだしリージェント・パークへ行こうと言います。
私が庭仕事が好きなので、少し無理をしているようですが、
この際甘えることにして地下鉄でリージェント・パークへ。
着いたときには雨も上がり、イギリス一と言われるバラ園を見学しました。
今の季節でこれだけのバラが咲いているのですから、
5月に来ればため息が出ると思います。

いいお天気になったので、池でボートに乗りました。
その後は初めてタクシーに乗って大英博物館へ行きました。

 

入館無料の大きな博物館。でも、多くのものがイタリアでも見られるので、
われわれは日本のものを展示しているところへまっしぐらに行きました。
息子に少し知ったかぶりができて満足です。

 

と、ここまではなんとか順調に運びました。
5日目の夕方から6日目の午前中にかけてひどい腹痛に悩まされた以外は・・・


最終日=出発の日

すでに12歳半の少年にふさわしく「Planet Holliwood」のT-シャツを2枚買ったのですが、
「Hard Rock Cafe」のT-シャツもほしいと言うので、またまたピカデリーサーカスへ
戻ったのですが、なんとここは「Hard Rock Casino」でありCafeではないのです。

そこで店員さんいわくオックスフォード通りの端っこにある「Hard Rock Cafe」目指して
また歩き始めました。

途中偶然に路上のメルカートにも出くわし、イタリアのエスプレッソコーヒーの看板に
キューガーデンで一度懲りてはいるのですが、一度だけで判断してはいけないと、
もう一度ドエスプレッソを飲んでみることにしました。
あまりおいしいとはいえないけれど、間違いなくエスプレッソでした。

さて、オックスフォードストリートを端から端まで歩きましたが目指すお店はありません。
もちろんただ歩くだけではなく、息子はロンドンらしい首飾りやパンタロンにも注意を払い、
私は残り少ないポンドを数えながら。

 

どうしてもお店は見つからず、お腹がすいてきたので息子は大好きな
バーガーキングのハンバーガー、
私はなんとおすしのお弁当を見つけたので飛びつきました。

ハイドパークのそばに泊まりながら、ほとんど見なかったので
園内でピクニックすることにしました。
時々息子に時間を聞きながら、飛行機の時刻を考えて行動していたつもりです。

ところがどうしたわけか、約1時間間違ってしまいました。
16時5分発の飛行機なので、国内線と同じ感覚のヨーロッパ路線は出発の30分前まで
チェック・インすることができます。(航空会社による。)

でも、あわてるのがいやなので1時間前には着いているように2時ごろの汽車に乗ると
3時前後に空港に着くからちょうどいいかなと計算していたのに、
なんと汽車に乗り込んだのが2時35分。

汽車はすぐに発車しましたが、順調に行っても飛行場で降りてからチェックインカウンターへ行き、
手続きをするのに15分しかないことになります。

ロンドンについた日に飛行場で汽車に乗るまでにずいぶんと歩いた覚えがあったので、
心臓がドキドキしっぱなしで、息子がなんだかだと話しかけてきても上の空で返事をしていました。

そしてこともあろうか、汽車は10分も遅れて飛行場に着いたのです。
つまり私たちには5分しか時間が残っていないのです!

「Excuse me, I have only five minutes!」と叫びながらエスカレーターを駆け上がりました。

 

幸いこの路線では幅を利かせている航空会社だったので、カウンターがずらっと並び、
すぐに見つけることができました。
まさに最後の人がチェックインをしているところに息を切らしてたどり着き、
何とか事なきを得ました。

ホテルに預けていたバッグを受け取ってから地下鉄までの急ぎ足、
行きよりははるかに重たくなったバッグが肩に食い込み、
地下鉄内では時計と睨めっこ、汽車の切符を買うのももどかしく
(駅員さんにはこっちの事情は分かりません)
でもイタリアと違って切符がないと入れませんので・・・。
汽車の中での祈るような気持ち。

魔の1時間半でした。

いつも時間には正確な方なのですが、なぜこんなことになってしまったのか分かりません。
目指すお店が見つからなかったことと空腹が
いつにもまして老化しつつある脳を混乱させたようです。

「Casa dolce casa」=「Home sweet home」         keiko