-Castello( カステッロ)=お城で過ごした1日-

 

肌寒い空っ風が強く吹いている。
大きなネルのシーツが乾いてしまったほどだ。

こんな季節にまだ小さかった陽介を連れて古いお城へ行った時のことをふと思い出した。

以前「方言」というタイトルで、内容はといえば全く中世の塔の説明になってしまったけれど、
たくさんのお城が作られたとお話をした。
12〜3世紀に建てられたお城を16〜8世紀に修復したというのが多いように思う。

お城によっては主がいなくなり、
お城の中をアパートのように改築して今も住民が住み続けているところもあれば、
完全な形のお城が残り、領主が管理しているところ、
あるいは国のものとなり、歴史博物館として公開しているところ、
結婚式や絵画展に貸し出しをしているところ、一味違ったホテルにしているところなどなど、
形態はさまざまだが膨大な維持費がかかることはたしかなようで、それぞれに工夫を凝らして
維持に努めている。

北部イタリアのお城はディズニーランドのお城を小さくしたような形が多いが、
このあたりのはもっとどっしりとしていて素朴な味わいだ。

中でも大きくてどっしりとしたブラッチャーノのお城。
正確な名前は、オデスカルキ家のお城。

ローマのすぐ北側に位置するブラッチャーノ湖のほとりに立っている。
ブラッチャーノ湖はローマっ子の夏のメッカと化すところ。
ローマから近くて大きくて水がきれいで、ほとりの町がみんな可愛いらしくてお城まであるのだから。

そうそう、この湖ではうなぎが取れる。

うなぎはイタリア語でANGUILLA(アングイッラ)。
イタリア人がうなぎを食べるとは思っていなかった方が多いのではないかと思う、
私もびっくりしたのだが、食べ方は残念ながら「蒲焼」ではない。

ぶつ切りにしたものを焼いて、マリネーにしたもの(酢漬け)を頂く。
正直、いまだに食べたことがないのでどういう味かご紹介できずに申し訳ないが、
皮の色がそのまま残っていてあまり食指が動かない。

もし召し上がったことのある方、われわれ日本人にはどういう味にうつるのか教えてください。

とにかく、そういう土地柄で、湖を囲んだ町のひとつはANGUILLARAといい、
まさしくうなぎの町という意味だ。

蛇足ながら、すいかのことをANGURIA(アングリア)という。
夏場、こちらのレストランでもデザートにすいかをいただくが、間違ってうなぎを注文しないように!

 

話がそれてしまったが、なんとこのお城にバロックの生みの親、第1人者、唯一の巨匠(バロック期の)
ジャン・ロレンツォ・ベルニーニの作品があったのだ!

初めてこのお城へ親子三人で出かけたとき、普段はガイドをしているわれわれが
お城の専門のガイドさんに案内してもらい、ほかの観光客たちとともに見て回った。

大きな食堂や台所、王さまの使っていた寝室、私の背よりも高い暖炉、
罪びとを見世物にするために入れておいたかごや数々の武器・・・。

そんなものを見ていたときに小さなおどけた大理石の作品が目に入った。
「あっ、ベルニーニ。」と思わず叫びそうになった時、
ガイドさんがちょうどその作品の説明を始めたのだった。

思わぬところで大好きなベルニーニの作品に出会えてとてもうれしかった。
そして、それを彼のものと直感できた自分がうれしかった。

美術など何にも知らなかった私が、何の予備知識もなく巨匠の作品を見分けることができた。
仕事のためとはいえ、一生懸命勉強した甲斐があったというものだ。

さて、お城の周遊が一段落した後は息子のお待ちかね。
普段テレビや絵本で見ている英雄たちが今日はこのお城にやってくるのである!

ショッピングセンターでパワーレンジャーを追いかけたときも胸がときめいたけれど、
大好きなバットマンが屋根の上で格闘した時には大声で声援を送った。
白雪姫が毒りんごを食べてしまって死んだようにベッドに横たわっていたのに
小さな王子が額にキスをするとパッチリと目を開けた。

もちろんその王子は陽介だ!

大きなお姉さん白雪姫だったけれど、やっぱり自分のキスで目を覚ましてくれるとうれしいに違いない。
だって、陽介の前にも何人か試したけれどうまく行かなかったのだから。

親としてはこういう時少しの観察が必要。
列ができているからといって、ただ闇雲に列に並んではいけない。
よーく見ているとだいたい6番目位の王子様のキスで白雪姫は目を覚ます。

だから、自分の息子をなるべく6の倍数あたりのところに並ばせなければいけないのだ。
はやる息子に気づかせずにちょうど良いところへ並ばせるのは骨が折れるけれど、
うまくいったときにはきらきらと輝く息子の目を見るだけでその苦労も吹っ飛んでしまう。

ほかにも若きアーサー王が岩に刺さっている剣を引き抜くゲームがあり、
お城の牢屋にとらわれている魔法使いを訪ねたり、
ドラキュラが棺おけから起き上がりびっくりさせられたり、
かつての食堂でお茶を飲みがら歌や踊りを堪能したりと盛りだくさんの一日だった。

                  Keiko